いつまでも終わらないで…子どもの想像力を刺激する「おてて絵本」

3.11の震災の頃。一部地域では計画停電が実施され、その時間帯はパソコンを使うことはおろか、テレビ視聴もできない状況でした。
当時小学生だった我が家の子どもたちは、計画停電がはじまると早々にベッドに潜り込み、時折窓から漏れ差す報道ヘリコプターの灯りにきゃっきゃとはしゃいでおりました。
暗闇ですので、子どもたちに絵本を読むこともできません。私も一緒にベッドに入り、覚えている昔話を語ったり、即興でおはなしをつくったりしていたのですが、あるとき、「おてて絵本」のことを思い出し、やってみることにしました。
「おてて絵本」は絵本のページをめくる様子を模した手の動きを合図に“読み手(話し手)”が代わり、即興ストーリーをリレーしていくという手あそびです。
ただ、即興でおはなしを繋ぐだけでなく、絵本のページを繰るような手の動きが加わることで、おはなしに独特のリズムとメリハリが生まれ、飽きさせません。
「パッ」とめくるその手の動きも、素早くめくったのか、ゆっくりとめくっているのか…、おはなしのムードがまったく変わってきますよね。
前に話した人の終わり方によっても、次におはなしを繋ぐ人の調子に変化が現れます。
この「おてて絵本」、もしかしたら、子どもたちの語る即興ストーリーに対し、人気絵本作家のイラストつきの演出をしていた幼児番組内での「おてて絵本」のことを覚えておいでの方もいるかもしれません。
作家さんの描いた自由な発想のイラストはたしかに素敵だったのですが、暗闇の中で子どもたちと私とが駆使した想像力は、ビジュアル的に洗練されたプロの絵本作家さんのものより、はるかに自由奔放かつ、ナンセンスなものだったように思えます。
刑事ドラマのバディと、昔話のプリンセスがいっしょに旅行したり、そこへ世紀の大泥棒が登場したり、…とストーリーも荒唐無稽。
子どもたちは暗闇の中で笑いころげ、計画停電が終わって街に明るさが戻ってくると、「まだ終わらないで〜」などと残念がる始末…。
「おてて絵本」は暗闇限定のあそびというわけではなく、昼間の光りの中でも遊べますし、大騒ぎさえしなければ、バスや電車など公共機関の中でだってじゅうぶん親子で楽しめると思います。
しかし、計画停電の闇の中、ときどき漏れ入る外の灯りの中、ぼんやりと浮かび上がる私たち親子の「おてて絵本」は、昼間の日差しの中、いろんなものが見えている状態とは異なる、暗闇ならではの想像力を存分にかきたてられたのかもしれません。
さあ、あなたも実際に「おてて絵本」を楽しんでみてください。まずは、両手を合わせて、「おてて絵本のはじまり、はじまり〜」とスタートを告げ、パッと手を開きます。その中にはあたかも文章があり、絵が描いてあるように、おはなしを語りましょう。
おはなしを切り上げるタイミングも自由です。さっさと次の人にゆずってもよいし、「この1ページにそんな長い文章が書いてあるの?」と子どもからツッコミを受けるほど、長々語りつづけてもかまいません。
次の人へつなぐタイミングで「つづく」と言って絵本を閉じるように軽く両手を合わせます。パッと開くのは、次の人がやってもいいですし、前の人がやってもいい。2人が同じ動作を重ねて2回繰り返してしまっても問題なし。厳密なルールなどありません。自由に楽しんでみてください。
最初は上手に即興ストーリーが紡げないかもしれません。そんなときは、自分が熟知している既存の物語をアレンジしたり、わが子や家族などを登場させると途端にストーリーが活気づき、息づくのがわかりますよ!